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静岡陶芸美術館に天使が舞い降りた
- 館長日記2019.10.16
台風19号が日本列島に大きな災禍をもたらした翌日の13日、二人の小さな少女が美術館に来館した。
その日は当然来館者も無いだろうと考えていたが、二人ともナップザックを背負い、きょろきょろしながら入館してきた。
隣のららぽーとの施設と勘違いして来たと思ったが、フロントで「中学生以下400円」の案内を見たのか入館料を払おうとした。
後から聞いた話では、最初から入館するつもりで来たそうだ。
スタッフが小学生(二人とも4年生)だから無料でいいと言うと(こういうところは当館のテキトーなところ)中に入ってゆっくり展示品をみたらしい。
そして、喫茶コーナーに来るとWベッドより大きい8人掛けテーブルの隅に二人並んで座り、抹茶をひとつ注文し二人で飲み始めたという。
抹茶は1000円で提供しているが、おそらく子供には負担が大きかったから一杯の茶を二人で喫したのだろう。
ちなみに二人が選んだ茶碗は、北村和皇の華やかな京茶碗。
スタッフが気を利かして茶菓子を2個出したところうれしそうに食べ、二人でひそひそ話を始めたそうだ。
スタッフには二人の「聞いてみようよ」というかすかな声が聞こえたという。
おずおずと、今食べた生菓子を近くに住むおばーちゃんへの土産にしたいから分けて欲しいと言ったそうだ。
私が見た光景はリュックから財布を出し、抹茶代などを精算しているところだった。
1m40cmくらいの背丈が同じ子供が、財布からお金を出して支払いをする様子がテレビ番組の「はじめてのお使い」風で、ほほえましかった。
二人は隣の町から来たそうで、その夜はおばーちゃんの家に泊まるとか。
おばーちゃんへのお土産を下げて帰る後ろ姿は、大げさでなく私たちには天使のようだった。
出来立ての美術館は当然ながら認知度が低く、入館者はまだ多くない。
かつ、多くの人が急ぎ足でオープンしたばかりのららぽーとに、ニュースで見た「アメリカを目指す中南米の移民」のように並んで向かい、美術館に目を向ける人もいないから、時にはスタッフも時間を持て余すようだ。
当たり前だが美術館に行った経験がない人も多く、「タダじゃないのか」と捨て台詞をはいてUターンする人や、700円の入館料が高いという人もいる。(他所は最低でも1000円以上だが、美術館経験がないから「相場」を知らないのだろう)
こうした言葉には、スタッフも落ち込むと思う。
感受性を磨いたり、美意識を高めることに金を使うことは決して無駄ではないのだが。
こうしたセコい大人の対応に心が折れかかるスタッフに、きっと「気にするな」と遣わしてくれた天使があの少女二人だったと思っている。
子供が400円を支払ってやきものを観賞しようとする姿に、
一杯の抹茶を二人で分けて飲む姿に、その日一日みんなが癒された。
家に帰って使うようにミュージアムショップの三足の小鉢をそれぞれに記念として持たせたが、(こういうところもテキトーなところ)
おばーちゃんや家族への報告の時、少女たちが楽しい体験をしたと思ってくれたら美術館冥利に尽きる。
二人の天使へ。
また来てね。そして野暮でずるい大人にならないように。
↓台風19号当日の池の様子(10/12 この日は臨時休館した)
画面のぼやけは雨のため
手前の青瓷鉢に浮かべた花弁はほとんど風に飛ばされた。