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天使の次に仙人が来た
- 館長日記2019.10.24
新天皇が即位した翌日の10/23、警察(交番)から私あてに電話が入った。
曰く、静岡から電車で来た老人が沼津駅にいて、静岡陶芸美術館の場所を尋ねている。
道(場所)を教えてやってほしいという内容だった。
今年最初の風邪を引きずっていたので、頭がボーとしていて警官の言葉を理解するのに少しテンポが遅れたが、
警察官の話では、その人は当館が掲載された新聞記事の小さな切り抜きひとつを頼りに、一人で電車に乗って沼津に来たそうだ。
わざわざ静岡から電車に乗って美術館を訪ねてくれた人がいるのか、とようやく頭が動き出しうれしくなった。
当日は所用が重なりその人と会うことはできなかった。
対応した職員によると、
1時間余の時間を電車に揺られて来沼し、駅から交番で教えられたバスで美術館に来てくれたそうだ。
90歳になる方で、ご自身が陶芸をやっているとのこと。
館内を3回まわり、椅子に腰かけてはじっくり作品を御覧になったという。
その後、職員とよもやま話に興じたそうだが、職員が言うには的確な指摘が多かったという。
曰く、
「こんな町(沼津のことらしい。沼津は人口20万人弱)でこれだけの美術館を開館しても興味を持つ層が薄い。
なぜ静岡(人口70万人)や浜松(人口80万人)でやらなかったのか?」
「静岡だったら俺のような変わった人間(?)が結構いるから絶対に流行る。静岡でやるべきだ」
「それにしても、これだけの備前焼は地元・岡山でもお目にかかれない」
「何度も来たいから高齢者向けにシニア割引を検討してほしい。」
「次回の企画展の内容を早く知りたい。また来るから新聞の無料欄に案内を掲載するように」等々。
どれも私たちがいつも感じていることゆえ、そしてまだ手がついていない事柄ゆえ耳が痛い。
夕方職員からの報告を聞いた私は、会えなかった90歳のパワーに圧倒された。
仕事で静岡に行くことは何度かあるが、運よく座席に座れればいいが、立ちっぱなしの1時間は結構つらい。
ましてやバスの乗り継ぎなどを考えると、相当の情熱(やきものが好き)がなければ行動できるものでもないだろう。
小さな新聞記事の切り抜きを頼りに(この記事には当館の住所や開館時間、休館日などが載っていない)、
休館日に当たらないことを祈って来てくれたそうだ。
お茶を出したか聞いたところ、自分が携帯している水筒の水を飲んでいたとのこと。
成程、達観した人間は水を携帯するものだと意味もなく妙に感心した。
この方がいつ頃美術館を去り、静岡までどのように帰ったか分からない。
時間帯によっては帰りの電車が混雑して立ちっぱなしだったかもしれない。
90歳の体力では必ずしも楽な旅程ではなかったと思うが、そうまでしてと考えると本当にありがたい。
そして作品と職員との会話(ずいぶんいろいろ話し込んだようだ)を充分に楽しんでいただけたことを切に願う。
こういう人のために頑張ることが私たちの使命だとあらためて感じた。
その人の話を聞いた時ふと思った。
天使に続き、今度は仙人が美術館に来てくれたかと。
この仙人もきっと小さな美術館にエールを送ってくれるために来館してくれた、と思うと力も沸く。
是非また来て頂きたい。
この美術館をぜひ見て欲しかった人が二人がいる。
村田亀水先生と古くからの陶芸仲間のKさんだが、二人とも去年90過ぎで亡くなった。
二人の喜ぶ顔を見ることが私の励みのひとつだったのだが、叶わなく口惜しい。
だから今度その仙人に会えたら、二人だと思っていっぱい話し込もうと思っている。
↓館内の座席
この席に座って作品を鑑賞していただきたい。
ちょうどいい目線に作品が来るように配置してある。
背もたれの上にある植物は、私が育てたコーヒーの木とガジュマルで、幾つかは嫁いでいった。